2016年8月29日月曜日

八丈語と琉球語

現存する方言のなかで、中央本土方言との距離が大きく、日本語の起源を探求するなかで大きく注目されるのは、琉球語と八丈語である。


八丈語

八丈語は上代東国方言の姿を現在に残している言語と言われる。

上代東国方言では、四段活用動詞において終止形は中央語と同様ウ段であるのに対し、14/3431「ヒフネ(引く船)」、20/4385「ユサキ (行く先)」などのように、連体形では甲類オ段になる。

八丈方言でも、「コシン ツリーテ アロ モノウ(腰に吊るして有る物を)」のアロのように連体形がオ段になる。

終止形は、本来の終止形ではなく連体形+終助詞ハに相当する語形(「カコワ(書くは。)」「キロワ(着るは)」などの語形になるのが通常なので、この形だと終止形がウ段なのかどうかわからないのだが、八丈語には、上代東国方言以来の終止形接続の現在推量助動詞「ナモ」(中央語のラムに相当)が残っていて、これへの接続はウ段になっている。

  • (中央語) 01/0004「たまきはる 宇智の大野に 馬並めて 朝踏ますらむ(布麻須等六) その草深野」
  • (東国語) 14/3563「比多潟の 礒のわかめの 立ち乱え 我をか待つなも(麻都那毛) 昨夜も今夜も」
  • (八丈語) 「ハヤ ジューネングレーニワ ナルナオワ」(早や(もう) 十年ぐらいには 成るなもは(なるだろう)」(青ヶ島方言。三根方言ではナルノーワ)

「見る」など、靡のルがつく一段・ニ段・カサ変などについて、ルが省略可能(見ルノーワ/見ノーワ、寝ルノーワ/寝ノーワ、来ルノーワ/来ノーワ)のも、「見るらむ」「見るらし」等を「見らむ」「見らし」と言っていた上代語の姿を彷彿させる。

八丈語ではナモ由来の「ノーワ」は現在推量ではなく推量で、本来の未然形接続ム由来の「書コウ」「「寝ロウ」などの語形は意思を示す。

が、本土標準語でも「だろう」が推量で、ム由来の「う/よう」は、文章語で「早急の対策が必要となろう」みたいに推量の意味になることもあるが、口語では意思の意味専用になっているわけだから、まあ、似たようなもんである。

その他、形容詞連体形に「ケ」が現れること、

  • (東国語) 14/3412「上つ毛野 久路保の嶺ろの 葛葉がた 愛しけ(可奈師家)子らに いや離り来も」
  • (八丈語) 「ナカノ ヨーケ コモタズノ トショリフーフガ」(仲の良け(良き)子持たずの年寄夫婦が)

完了リに由来する過去形が存在するだけでなく、完了リの接続が、上代中央語のようなエ段接続ではなく、上代東国語のようなア段接続になっていること、

  • (中央語) 20/4478「佐保川に 凍りわたれる(和多礼流) 薄ら氷の 薄き心を 我が思はなくに」 (watari-aru > watareru)
  • (東国語) 14/3546「青柳の 張ら(波良路)川門に 汝を待つと 清水(せみ)は汲まず 立ち処平すも」 (pari-arô > pararô)
  • (八丈語) 「トショリフーフガ アララッテイガ」(年寄夫婦が有らろは(有った)って言うが) (ari-arô-pa > *ararowa > arara)

など、上代東国方言の香りが満載である。

私の仮説的に気になるのは、連体形オ段が、上代東国方言で見られた四段・ラ変のみでなく、その他の活用形にも及んでいることである。
下二段・上二段などは、本土方言と同様に一段化している(「寝(ぬ)」は、「ヌ」「ヌル」ではなく、「ネル」)が、その連体形は「ネロ」。
上一段「着る」、カ変「来る」も同様に、「キロ」「クロ」となる。(「する」は語形変化を受けて「ショ」)

管見の仮説では長母音のウが甲類オとなっているとしているので、管見の動詞活用形起源の仮説では短母音ウであるはずの二段・カサナ変連体形の靡のルは、ロになってはいけない。

「寝(い)ぬ」は、終止形 inuu, 連体形 inuuru のはずなので、終止形「イノ」、連体形「イノル」とはなってもよいが (*)、連体形「イヌロ」の語形があれば、私の仮説は崩れるわけである。

  • (*) 実際、「inuure > inôre イノレ」であるべき已然形について、20/4351「旅衣 八重着重ねて 寐のれども(伊努礼等母) なほ肌寒し 妹にしあらねば」があり、連体形も「イノル」の語形だったことを予想させる。

故に、この八丈語の連体形語形は脅威なのだが、これは、五段活用からの類推により二次的に出来た語形だということで説明は可能だと思われる。

ム由来の語形について、「ヘーロウ(入ろう)」と「寝ロウ(寝よう)」のように、ラ行五段と下一段で語形がどちらもロウに統一されている。

  • これを見ると、本土中央語の「寝よう」語形の由来も考えちゃいますね。
    下二段「寝む」、上二段「起きむ」、カ変「来む」、サ変「せむ」等は、普通の音韻変化からすれば「にょう」「おきゅう」「こう」「しょう」になってしかるべき(実際、ロドリゲス日本小文典等の安土桃山期キリシタン文献ではそういう語形で出てくる)であり、「ねよう」「おきよう」「こよう」「しよう」になるのは奇妙。
    東国方言でラ行四段(ex. 入る:入らむ > 入ろう)から類推してできた「寝る:寝ろう」「起きる:起きろう」等がまずあって、命令形の中央語:東国語の対立「寝よ:寝ろ」「起きよ:起きろ」からの類推で、中央語風の発音にしようと過剰修正を起こして「寝よう」「起きよう」の語形になり、江戸/東国の地位向上とともにそれが中央語に逆輸入されたという仮説も考えられそう。

また、サ変「ス(する)」は、ショウ、シテ、スノーワ、ショワ、スレバ、シェのように活用し、サ行五段「出す」: ダソウ、ダシテ、ダスノーワ、ダソワ、ダセバ、ダセと比較すれば、已然形を除けば、いわばシャ行五段活用のような活用をしていて、五段からの類推が働いていることがわかる。

ということで、一段動詞等の連体形語形においても、五段活用からの類推があっても不思議ではなかろうと思われるのである。

琉球語

現代の琉球諸方言でウ段/オ段の区別が消失し、u に統一されているため、その痕跡は残っていないようなのだが、オ段連体形は琉球語でも存在し、おもろさうしにはその痕跡が残っているらしい。

……が、おもろさうしの例があまりにも少ない(ほぼ全ての連体形はウ段)し、そもそもウ段/オ段がてれこになっているケースが多々あるので、ちょっと今一つ信用が置けない感じある。

私が発見できたのは下記のとおり。例示じゃありません。頭からぺらぺらとめくっていって発見できた全部。

  • おもろ05/0277「百按司(もゝあぢ)の 見倦(あぐ) てだ」
  • おもろ10/0517「大島(たしま) 鳴響(とよ) おもかは」「又鳴響(とよ) せぢ新君(あらきみ)」
  • おもろ12/0741「又精高子(せだかこ)が 見守(みまぶ) 末(すへ)勝る王(わう)にせ」
  • おもろ13/0831「御肝(おぎも)の 撓(しな)様(や)に 走(は)りやせ」
  • おもろ17/1245「又屋嘉部(やかぶ)かち 歩(あよ) てだ」
  • おもろ22/1540「大島押笠(だしまおしかさ)が 鳴響(とよ)み居(よ) 上里杜(おゑざともり) 見(み)ちゃる」

かりまた(2016) によるとほかに「聞こ」「誇ろ」の例があるらしいので、私のぺらぺらめくりでの見落としは他にもあるかもしれない。

  • (2016.09.03 追記)
    • かりまた(2016) には、オ段連体形の実例がある箇所の明記がなかったのだが、場所の明記があるかりまた(2014) を参照し、私に下記の見落としがあったことがわかった。はい、盛大に見落としています。。。不慣れな琉球語をぺらぺらめくりで読み解けると思っていたのが馬鹿でした。
      • おもろ02/0070「百(もゝ)ぢゃらの 羨 清水(さうず)」
      • おもろ03/0135「聞得大君ぎゃ せぢ鳴響精軍(せいくさ)」
      • おもろ03/0147「又あきり口 鳴響大君や」
      • おもろ04/0171「又精高子が庭(みや)の鳴響み 按司誇御庭の」
      • おもろ04/0206「又鳴響国守りぎゃ 真末(ませ) 選(ゑら)びやり 降(お)れわちへ」
      • おもろ08/0466「あし川の有らぎやめ 雲清水(くもさうず)有らぎやめ)」(「雲清水」を、かりまた(2014)は「汲清水」と解する)
        • 02/(巻内通番12)「あしかわに ちよわちへ くもさうず ちよわちへ」があると、かりまた(2014)はするが、発見できず。
        • (2017.07.14 追記) 発見。20/1342(巻内通番12) でしたね。かりまた (2014) に「巻二の一二」とあるのは「巻二〇の一二」のミスプリでしょう。
      • おもろ12/0715「中ひやにや おわ あれにしやよ 今(いみゃ)ど 降れてなよる」(いらっしゃる(おわす)の意味の「おわる」ですね)
      • おもろ12/0719「精有(せや)国襲い 上里杜 降れわちへ」
      • おもろ13/0800「世襲せぢ せぢ勝る若ゑ子(きよう)」
      • おもろ13/0846「聞ゑあけしのが 肝(あよ)揃 貴(たゝ)み子(きう) 前かち」
      • おもろ14/1001「又東方(あがるい)杜ぐすく 揚が綾庭(あやみや)に 成さい子(きよ)」
      • おもろ15/1079「百年(もゝと) 積 金(こがね)」
      • おもろ16/1128「又宣(せ)る殿原よ」
      • おもろ18/1254「大城(ぐすく)親軍(いくさ) 大国(ぢゃくに)鳴響み軍 見ちぇど見あぐ」…係助詞「ど」からの連体形係結び
      • おもろ22/1526「聞ゑ君加那志 君が祈杜に ちよわちへ」
    • 以下の例は連体形には見えず、動詞終止形であれば違例だが、かりまた(2014)は未詳語とする。
      • おもろ12/0700「又成り子(きよ)降ろちへ聞へる 又いけな 降ろちへ聞き
      • おもろ15/1114「又さすのろわきく 差笠に知られゝ」
      • おもろ21/1443「又大祖父(おきおほぢ)ぎや おわにや ゑんげらゑ有り 又仲地奇せ庭(みや)に むかげらゑ有り
    • 「聞こ」の例なし。かりまた(2014)以降、かりまた(2016)までに発見したものだろうか。
    • こうして見ると現れる巻に偏りがあるように思える。マ行以外の例が見られるのは巻12-14, 22 (神遊(あすび)、舟歌(船ゑと)、舞踏(ゑさ)、王府式歌(みおやだいりおもろ))などのみ。
  • (2017.07.14 追記)
    • 「聞こ」の例、発見しました! 長らく発見できていませんでしたが、明治大学日本古代学研究所さんが「おもろさうし」の全文テキストファイルを公表されているのを発見したので、そこから検索で瞬殺でした。 IT革命万歳、明治大学さん万歳。
      • おもろ14/0992「精(しひ)憑く按司襲いぎや 御み声の 聞こ様(や)に」

興味深いのは、(かりまた(2016)の「聞こ」も信用するとして)カハマラ行に集中していること。万葉集でも甲類オ段連体形はカハマラ行に多い。「カガハバマ行で特殊な動き」というパターンをやたら発見してしまうのだが、何なんでしょうね。

一方で、おもろ12/0725「明けろ年 立た数」なんてのも発見してしまった。。。下二段「明け」(本土語と同様、一段化している)が「明けろ」になっているのだとすれば、八丈語のところでも言ったように、私の仮説では脅威。。。「る/ろ」の書き誤りであることを祈ります。または、四段からの類推。
なお、ちなみに「立た数」は「立たむ数」に由来する語形。

琉球語にオ段連体形は本当にあったのか。。。現在の首里方言ではウ段オ段の区別は消失しているが、石垣方言の fu(フ), pu(ホ) のようにウ段オ段の区別のある方言もある(船 funi, 骨 puni。首里方言だとどちらも funi)ようなので、実際どうなのかは気になるところだが、オ段連体形の報告例はないようである。

琉球語には、上代中央語、上代東国方言/八丈語にも残存していないと思われるような日本祖語の姿を残しているのでは?と考えられる点がある。

ui 由来の乙類イと、oi 由来の乙類イの区別

上記の石垣方言のフホ区別と話は似ているのだが、現代首里方言でイ段エ段は一見区別なくどちらも i になっているように見えるのだが、区別の痕跡が残っている。

  • 血: [tɕi:] チー 手: [ti:] ティー

キ、チは口蓋化・破擦化して、[tɕi] チになるが、ケ、テは破擦化せず [ki] [ti] となるのでこれらについては区別がつくのである。
また、イ段は後ろの子音も口蓋化・破擦化するので、キ・チ以外のイ段でも後ろの音によっては区別がつく。

  • 苦み: [ɴʒami] ンジャミ。ニガ>ニジャ(>ンジャ)
  • 願い: [nige:] ニゲー。ネガ>ニガ。

「穢(けが)れる」が、予想される [kigarijuɴ] キガリユンではなく、[tɕigarijuɴ] チガリユンだったり、ん?と思う時もあるのだが、少なくとも [tɕiʒarijuɴ] チジャリユンではない。おもろさうしの語形などを見ると、後ろの子音の口蓋化はもともとあったのに対し、前の子音の口蓋化は首里方言の新規特徴らしく、あまり信用が置けないのかもしれない。

上記のように、現代首里方言でもイ段エ段の区別が残存しているのだが、おもろさうしにおいても、大体はイ段エ段は書き分けられている(発音が [i] [e] であったかどうかは分からない。[i] [ı] だったり、子音の口蓋化の有無だったりしたかも知れない)のだが、時々「ん?」と思う時がある。

その中でもっとも目につくのは、上一段がまるで下一段のように活用していること。

  • おもろ01/0016 「聞得大君ぎゃ 首里杜 降れわちへ」(聞得大君が首里杜降りおわして)
    • 「大君が」が「大君ぎゃ」となるのはキミのミのイ段の後だからガが口蓋化しているのであり、「降りわちへ(オリワチェ)」の「ちへ(チェ)」は、「おわして」が、オワシテ > オワシチェ > オワチェのように、シがテを口蓋化した後、当の本人は脱落しているという語形。

上二段連用形「降り」が「降れ」になっている。上二段連用形は乙類イであることを思い起こして、他の例を当たると、同様に乙類イである「木」について、

  • おもろ14/0991 「東方(あがるい)の真下に 桑木下(くわげもと) 吹く鳥」

のように、木を「け」と表記している例が見られる。現代首里方言でも「木」は、 [ki:] キーであって、[tɕi:] チーではない。

どうやら、甲乙類エ段・乙類イ段が琉球語エに、甲類イが琉球語イになっているようなのである。

だとすると、乙類キの「月」 tukï は、現代首里方言で予想される語形は、[tsiki] ツィキなのだが、これが、 [tsitɕi] ツィチ。

これがどういうことかというと、

  • 月 *tukui > tukï (cf. 月読 tuku-yômi)
  • 木 *koi > kï (cf. 木立 ko-dati)

なのであって、ui に由来する ï は、i (甲類イ) と合流したのに対し、oi に由来する ï は、e (甲類エ)、ë (乙類エ) と合流したということらしい。

私の本来の分析対象である動詞について見てみると、

起き okoi > okï (cf. 起こし okosi) : 首里方言 [ʔukijuɴ] ウキユン
過ぎ sugui > sugï (cf. 過ぐし sugusi、過し sugôsi) : 首里方言 [siʒijuɴ] スィジユン

「起きる」は「ウキユン(not ウチユン)」と口蓋化しないのに対し、「過ぎる」は「スィジユン(not スィギユン)」と口蓋化している。

なるほどなあ、なのだが、、、

「起きて」は [ʔukiti] ウキティ、「過ぎて」は、[siʒiti] スィジティで、「て」 [ti] がどちらも口蓋化されない。。。四段「書いて」だと [katɕi] カチ (kaiti > kaitɕi > katɕi) と、ちゃんと口蓋化されるのに。

  • ちなみに「取って」は [tuti] トゥティと口蓋化されない。非音便連用形「取りて」じゃなく音便形「取って」から来てる語形なんですね。i の後じゃないので ti が口蓋化しない。「切って」は、[tɕittɕi] チッチ。「っ」を間に挟みながらもイ段「き」の後の「て」なので口蓋化される。 

まあ、一段動詞のなかで、活用形の統一が図られたんでしょうね。

  • 「過ぎ」以外に -ui 由来の上一段がほかにないか当たったんですが、なさそう。「朽ちる」「浴びる」あたりに期待したんですが、「朽ちる」は四段「朽つ」相当と思われる [kutɕuɴ] クチュン。「浴びる」は全然違う語形の [kuɴtɕakajuɴ] クンチャカユンだそうで。「汲み懸かる」ですかね。

以上のように、ui 由来の甲類イと、oi 由来の甲類イは、少なくとも文字表記に残されたものについて見る限り、上代東国方言を含めて区別されていないのだが、どうやら琉球語では区別されている。

このことから、琉球語と本土日本語が分離したのは、記紀万葉期よりも前だろうと思われるのである。(一方で、音便とか二段動詞の一段化とか、明らかに中古以降の変化も反映されているので、その後も本土日本語の影響下にあったのは明らかだが)

アクセント

金田一(1974) 等によれば、日本語の全ての方言の親は院政期京都アクセントであって、どの方言のアクセントもそこからの変化で説明が可能だとする。
しかし、服部(1978-1979) 等は、琉球語のアクセントは、それでは説明できないとする。
以下に、五十嵐 (2016) をもとに、2拍語の場合のアクセント対応を示す。

日本語類琉球語類院政期現代京都現代首里所属語
1類
A類
HH
HH(-H)
HL
魚ウオ,牛ウシ,枝エダ,風カゼ,腰コシ,酒サケ,鳥トリ,鼻ハナ,星ホシ,水ミズ,虫ムシ // 臭カザ,洞ガマ,大蒜ヒル
2類
A類
HL
HL(-L)
痣アザ,石イシ,歌ウタ,音オト,川カワ,旅タビ,夏ナツ,冬フユ,胸ムネ,村ムラ,雪ユキ // 上顎アギ,陸アゲ,仇アダ
3類
B類
LL
HH
犬イヌ,芋イモ,色イロ,肝キモ,草クサ,雲クモ,島シマ,花ハナ,豆マメ,耳ミミ,山ヤマ // 踵アド,宍シシ,映えハエ
3類
C類
H:H
瓶カメ,骨ホネ,蚤ノミ,浜ハマ // 脛ハギ
4類
B類
LH
LH; LL-H
HH
粟アワ,板イタ,稲イネ,笠カサ,肩カタ,角カド,種タネ,苗ナエ,肌ハダ,蓑ミノ,麦ムギ // 筬オサ,衣キヌ,地震ナイ
4類
C類
H:H
跡アト,息イキ,糸イト,臼ウス,海ウミ,槌ツチ,中ナカ,針ハリ,舟フネ,箆ヘラ,松マツ // 茸ナバ,喉ノド,蓬フツ
5類
B類
LF
LF; LH-L
HH
藍アイ,青アオ,汗アセ,雨アメ,黍キビ,黒クロ,鯉コイ,白シロ,鮒フナ,眉マユ,腿モモ // 綛カセ,火気ホケ,訳ワケ
5類
C類
H:H
桶オケ,蔭カゲ,蜘蛛クモ,声コエ,猿サル,鍋ナベ,前マエ,婿ムコ // 樋 トイ

院政期に高起であった1類(HH)・2類(HL)が統合し、A類(HLの起伏式)になる。これは問題がない。

一方、院政期に低起であった3類(LL)・4類(LH)・5類(LF) も統合していて、それだけなら、「ああ高起・低起の式だけ保存して、下げ核の位置は保存しない二型アクセントね。ありがち」なのだが、3・4・5類がB・C類の二手に分かれている。つまり、院政期アクセントには存在しなかったアクセントの区別が琉球語には存在している。日琉祖語のアクセントを考えるなら、1A, 2A, 3B, 3C, 4B, 4C, 5B, 5C の 8 類を想定しなくてはいけないのだ。

なお、首里方言のC類は「H:H」のアクセントとして記載している。ここで ":" は長音を意味している。つまり、首里方言のB類C類はアクセントとしては高平板で変わりなく、1文字目が長くなるかどうかで差がある。 ex. B類「雨」 [ʔami], C類「桶」 [u:ki]

  • ちなみに余談だが、The Boom の島唄の歌詞(ウージの森であなたと出会い…)にも出てくる「ウージ」 [u:ʒi] (砂糖黍) は、日本語の「荻(をぎ)」に対応する言葉で、院政期アクセントはLLであり、首里方言で [uʒi] でなく、[u:ʒi] と長音化しているので、3C類にあたる。
  • 荻の「ぎ」は乙類だが口蓋化している。wogoi じゃなくて wôgui なのか?
  • 荻と砂糖黍って別物じゃんという気も一瞬するが、イネ科キビ亜科サトウキビ属サトウキビと、イネ科キビ亜科ススキ属オギとは、同じキビ亜科の中の Andropogonae 類なのだそうで、さほど遠くない。少なくともイネ科キビ亜科の Paniceae 類のキビ属キビよりは近い。

「それってアクセントの差じゃないじゃん」と思うのだが、首里方言では確かにそうなのだが、他の琉球方言では実際にアクセントの差になっているケースが多々あるし、首里方言で長音化する理由もそれはそれで究明する必要があるので、まずはアクセントの差として整理しているのである。

しかし、首里方言で長音化している(他の琉球方言でもアクセント差とともに、長音の現れがあるケースが多々ある)というのは、何か、母音の長短に由来している香がしてくる。

私の仮説では、日本語にかつて、母音の長短の区別があったことを前提に立論しているので、このあたりを突破口にして、日本語にかつて長母音があったことを立証したいと悪戦苦闘しているのだが、今のところ旨い結果は出ていない。

うーん、、、。

[参考文献]

金田 章宏 (2001) 『八丈方言動詞の基礎研究』, 笠間書院, ISBN978-4305702326

金田 章宏 (2012) 「八丈方言における新たな変化と上代語」, 言語研究 (142), pp.119-142, 2012-09 http://ci.nii.ac.jp/naid/40019498189/

かりまた しげひさ (2016), 「琉球諸語のアスペクト・テンス体系を構成する形式」, in 田窪 行則 (編); Whitman, John (編); 平子 達也 (編) 『琉球諸語と古代日本語 ―日琉祖語の再建にむけて』, くろしお出版, pp. 125-147, ISBN 978-4874246924

Pellard, Thomas (2016) 「日琉祖語の分岐年代」, in 田窪 行則 (編); Whitman, John (編); 平子 達也 (編) 『琉球諸語と古代日本語 ―日琉祖語の再建にむけて』, くろしお出版, pp. 99-124, ISBN 978-4874246924

服部 四郎 (1978-1979) 「日本祖語について (1-22)」, 月刊言語 7(1)-7(3); 7(6)-8(12)

佐藤 清 (1996) 「『おもろさうし』の木と毛の表記について」, 琉球の方言 (20), pp.152-201, 1996-02-26, 法政大学沖縄文化研究所 http://ci.nii.ac.jp/naid/120005704571/

国立国語研究所 (2001) 『沖縄語辞典』 第9刷 http://mmsrv.ninjal.ac.jp/okinawago/

秋永 一枝; 上野 和昭; 坂本 清恵; 佐藤 栄作; 鈴木 豊 (編) (1997) 『日本語アクセント史総合資料 研究篇』, 東京堂出版

金田一 春彦 (1974), 「国語アクセントの史的研究 原理と方法」, in 『金田一春彦著作集 第七巻』, 玉川大学出版部, pp. 11-310, ISBN 978-4472014772

五十嵐 陽介 (2016) 「アクセント型の対応に基づいて日琉祖語を再建するための語彙リスト『日琉語類別語彙』」, 日本語学会2016年度春季大会 2016-05-15 http://researchmap.jp/yos_igarashi/

松森 晶子 (2000a) 「琉球アクセント調査のための類別語彙の開発 : 沖永良部島の調査から」, 音声研究 4(1), pp.61-71, 2000-04-28 http://ci.nii.ac.jp/naid/110008762730/

松森 晶子 (2000b) 「琉球の多型アクセント体系についての一考察 : 琉球祖語における類別語彙3拍語の合流の仕方」, 国語学 51(1), pp.93-108, 2000-06-30 http://ci.nii.ac.jp/naid/110002533578/

 

 (2016.09.03 追記)
かりまた しげひさ (2014) 「連体形語尾からみた『おもろさうし』のオ段とウ段の仮名の使い分け」, 『沖縄文化』 (116), pp.187-198

 

(2017.07.14 追記)
明治大学日本古代学研究所 (2014) 「『おもろさうし』データベース(txtバージョン)」 in琉球関連データベース retrieved: 2017-07-14 http://www.kisc.meiji.ac.jp/~meikodai/obj_ryukyu2.html

 

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