2016年9月19日月曜日

上代日本語の動詞活用形の起源 Ver. 2

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上代日本語の動詞活用形と自動詞他動詞ペアパターンの起源の仮説について、当初案以降に考察したこと(上代東国方言や、母音調和(有坂法則)との関係について)を含めて考えた結果、今、頭のなかにある仮説の姿を、一度まとめておきたい。
当初案とぱっと見はかなり変えたところもあるけれども、大枠は変わっていない。

  • 仮説のうち、骨子となる部分は下記であって、その部分は変わっていないわけである。それ以外はまあ枝葉末節の微調整。
    • 自動詞他動詞ペアパターンのうち、四段A型(空き/空け -i/-ë、焼け/焼き -ë/-i)になるか、四段B型(靡き/靡かし -i/-asi、放(さ)き/放かり -ari/-i)・二段型(明け/明かし -ë/-asi、上がり/上げ -ari/-ë)になるか、四段C型(かぶり/かぶせ -ri/-së、越し/越え -yë/-si)・一段型(着/着せ φ/-së、見え/見 -yë/φ)になるかは、-○-a-○-i の、aの前後の○のどちらに子音が入るか(どちらにも入らないか)によっている。それがどう決まるのかは、語尾 -○-a-○-i がつく語幹部がどういう形だったか(子音終わりか短母音終わりか長母音終わりか等)による。
    • 子音の挿入箇所は、三母音連続を回避するように決定されるように見える。こうなった具体的な経緯としては、(1) 二母音連続の後に母音を付加する場合、子音が挿入されたか、(2) 一律挿入された子音が、短母音間では消失したか、等が考えられる。
    • 終止形・連体形に靡のルがつくかどうか、命令形が甲類エ段になるか/連用形+ヨになるかも、上記と理由を共有する。
    • 下二段・上二段・上一段の未然形は連用形と同形だが、これは二次的にそうなったのであって、本来は自動詞他動詞派生(明け/明かし(-a)、尽き/尽くし(-u)、起き/起こし(-ə)) や、シク活用形容詞派生(痩せ/やさしく(-a)、なぎ/なぐしく(-u)、老い/老よしく(-ə)) などと同形であった。
    • カ変・サ変の命令形(こ、せよ)が、未然形(こ、せ)接続風なのは、短母音単音節の連用形に短母音単音節の接辞を付加する場合、間に母音が挿入されたことに由来する。カ変・サ変において、禁止形(な~そ)、過去助動詞終止形・連体形(き、し)の接続が未然形接続になっているのも同様の理由である。
    • 已然形は、「連体形+得(え)」に由来する。「する得(え)ば」→「すれば」。「するコトヲ得ば」の意味。過去助動詞已然形「しか」は、「ありしく得(あ)ば」→「ありしかば」で、ク語法「しく」+「得の未然形が連用形同形になる前の語形、得(あ)」に由来している。
  •  以下は、当初案以降に追加した要素
    • 二段動詞の本来の未然形において、陽母音語幹(-a/-u) と陰母音語幹(-ə) とで付いた母音が異なっているのは母音調和の痕跡。四段でも本来一律 -a ではなく、陽母音語幹・陰母音語幹で -a/-ə をつけ分けていたと考える。
    • 上代東国方言では、四段動詞で「終止形: ウ段、連体形: 甲類オ段」になっているが、これは、連体形は終止形に余分の音節がくっついた形に起源(なので、二段動詞などで靡きのルがつく)していることの結果として、四段動詞で「終止形: 短母音、連体形: 長母音」だったことに由来している。
    • 二段動詞の終止形が全てウ段であること、未然形・派生語尾が -a/-u/-ə のような形になること、「短母音:ウ段、長母音:甲類オ段」になることで見られるように、 au > u, əu > u, ua > u, ia > a, uu > o のような母音融合をしているように見える。
      これは、中高母音上昇(e > i, o > u)、二重母音の前項後項で高さの差が大きい時の高さ調整、二重母音の逆行同化等の一連の母音変化過程を想定することで説明可能である。
      (当初案では u > ə > a > i の優先度で残る母音が決定されるとしていた)


当初案の内容や、その後考察したことの内容については、 [総目次] から適宜参照し、一読された上で、以下に読み進められたい。



初期状態

  • 存在する母音として下記の状態を想定する。ATR (Advanced Tongue Root) スタイルの母音調和を持っていた。
  • 今後、陽 e と陰 i が統合し中性母音になる。陰 u と陰 ə が統合し陰母音 ə となる。その状態が大野などの想定するところの、a, i, u, ö 4母音状態である。
  • 上代日本語時点の陽 u は、この時点の陽 o に由来しており、この時点の陰 u とは関係ない。


前舌中舌奥舌
高母音
陰母音 i (>上代 甲イ, 甲エ)

陰母音 u (>上代 乙オ)
中高母音
陽母音 e (>上代 甲イ, 甲エ)
陰母音 ə (>上代 乙オ)
陽母音o (> 上代 ウ, 甲オ)
低母音
陽母音a (>上代 ア)


  • 四段活用は、子音語幹のもの、-e/-i で終わる陽・陰母音動詞、長母音で終わるものなどがあり得る。
    子音語幹のものは四段A型、-e/-i 終わりは四段B型、長母音終わりは四段C型の自動詞他動詞ペアパターンをとる。
  • 下二段は -a で終わる陽母音動詞のほか、-s/-r 等のその後脱落する子音で終わる子音語幹も含まれる。
  • 上二段は、-o / -u,-ə で終わる陽・陰母音動詞。
    陰母音語幹は -u と -ə 終わりのもの両方があっただろうが、どちらだったかは既に区別つかない。
    -s/-r 等からも発生しうる下二段とは異なり、派生によって生まれることがないため、その後、所属動詞数において、下二段に圧倒的な差をつけられることになる。
  • 上一段は単音節の陽母音語幹 Ce とする。目 ma / 見、矢 ya / 射、菜 na / 煮、などを考えると陽母音語幹とするのが妥当と思われる。
  • カサナ変は、それに対する陰母音語幹 Ci としておく。
  • 連用形は、語幹に -i がついたとしておく。
    • 長母音語幹の場合、自動詞は -ri, 他動詞は -si がついた。
    •  陽母音語幹には -e がついたのかもしれない。
    • カサナ変の ki, si, ni はもともと i で終わっているので、そのまま連用形になった。

-陽母音語幹陰母音語幹
最終活用種類四段下二段上二段上一段四段下二段上二段カ変サ変ナ変
語幹形態-C-Ci-VV-a
-Vr/-Vs
-oCe-C-Ci-VV-Vr/-Vs
-u
kisini
動詞焼き靡き被り受け過ぎ解き残き寄し籠め起き 往に
源語幹jaknabekekaboookasogometəknəkijəəkəməsəkəkisini
連用形jak-inabeke-ikaboo-rioka-isogo-ime-itək-inəkijəə-sikəməs-iəkə-ikisini

Step 1: 陽母音 e と陰母音 i の中性母音化


  • e, i が統合し中性母音に。原則として e, 二重母音後項の場合に i、という環境異音になる。
    • 上記のように仮定することによって、「陰母音語幹の下二段」の説明が可能となる。
      -əi は上二段になるが、-əri だと -əri の i は二重母音後項ではないため e になり、-əri > -əre > (子音脱落) -əe となって、下二段になる。陰母音語幹の下二段は、-ai でも -əi でもなく、-əri や -əsi に由来すると考えればよいのだ。
  • 単音節語の上一段では -ei > -ii。それ以外(ex. 靡き nabeke)の場合は -ei > -e
  • 口蓋化していた si, se については、サ変連用形のように卓立した位置にある場合は se でなく si に。

陰陽陽母音語幹陰母音語幹
最終活用種類四段下二段上二段上一段四段下二段上二段カ変サ変ナ変
連用形jak-enabek-ekaboo-reoka-isogo-imiitək-enəkejəə-sekəməs-eəkə-ikesine

Step 2: 活用形の整備


  • [派生語幹(未然形)] 陽母音語幹には -a, 陰母音語幹には -ə を付加し、派生語幹を作成。
    派生語幹とは、打消・推量等の接続に使用される(後の未然形)ほか、シク活用の形容詞派生にも用いられる(この時点で既にシク活用の形容詞があったわけではなかろうが)。また、他動詞自動詞派生 -(s)ase/-(r)are, -(s)əse/-(r)əre の -a/-ə も、((s), (r) が、Step 3 にて長母音の後を除き脱落するため) これと類似する形式である。
  • [終止形] 連用形から e/i を除去したものに -(r)o を付加し、終止形を作成。Ce/Ci (カサナ変) のようなものは e/i を除去すると子音のみになってしまうため、連用形に -ro を付加。
    (-(r)o: 母音の後は -ro, 子音の後は -o)
  • [連体形] 終止形に -ro を付加し、連体形を作成。
  • [命令形] 連用形に接辞 λə を後接させ、命令形。最終的に中央語では jə, 東国語では rə になるが、ここでは仮に λə としておく。
  • [自動詞他動詞派生] 陽母音語幹には -(s)ase/-(r)are, 陰母音語幹には -(s)əse/-(r)əre を付加し、他動詞自動詞派生。 (ex. -(s)ase: 母音の後は -sase, 子音の後は -ase)
    • -sase とか -rare とか、使役形・受身形っぽいがそれとは(間接的には関係あるが)直接の関係はない。その後、子音脱落、母音変化等を経て、-əe になったり、-asi/-ari になったり、-səe/-rəe になったりする。
  • サ変 si は、si 単独で一形態素として働く場合(派生語幹、連用形、命令形)は si のまま。終止形・連体形のように語尾がつき、si 単独ではなくなる場合、se に。
  • どこかの時点で、ナ変が多音節化。ne > ene

-陽母音語幹陰母音語幹
最終活用種類四段下二段上二段上一段四段下二段上二段カ変サ変ナ変
派生語幹jak-anabek-akaboor-aoka-asogo-ami-atək-ənək-əjəəs-əkəməs-əəkə-əke-əsi-əene-ə
連用形jakenabekekabooreokaisogoimiitəkenəkejəəsekəməseəkəikesiene
終止形jakonabekokaboorookarosogoromirotəkonəkojəəsokəməsoəkərokeroseroenero
連体形jak
oro
nabek
oro
kaboo
roro
oka
roro
sogo
roro
mi
roro
tək
oro
nək
oro
jəəs
oro
kəməs
oro
əkə
roro
ke
roro
se
roro
ene
roro
命令形jake λənabeke λəkaboore λəokai λəsogoi λəmii λətəke λənəke λəjəəse λəkəməse λəəkəi λəke λəsi λəene λə

ペアパターン四段A型四段B型四段C型(下)二段型(上)二段型上一段型
語幹形態-C-Ce-VV-a
-Vr/-Vs
-o
-ə/-u
Cii
陽母音自他動詞空き/け靡き/かし被り/せ明け/かし尽き/くし着/着せ
基本形ak-enabekekaboo-reaka-itoko-ikii
派生形ak-asenabeke-sasekaboo-saseaka-sasetoko-saseki-sase
陽母音他自動詞焼き/け放(さ)き/かり越し/え上げ/がり-見/見え
基本形jak-esakekoo-seaga-i-mii
派生形jak-aresake-rarekoo-rareaga-rare-mi-rare
陰母音自他動詞響み/め残き/こし上り/せ解け/かし起き/こし-
基本形təjəm-enəkenəbəə-retəkər-eəkə-i-
派生形təjəm-əsenəke-səsenəbəə-səsetəkər-əseəkə-səse-
陰母音他自動詞解き/け寄し/そり零し/れ籠め/もり--
基本形tək-ejəəsekəpəə-sekəməs-e--
派生形tək-ərejəəse-rərekəpəə-rərekəməs-əre--

Step 3: 子音脱落


  • 短母音間で r, s, λ が脱落。但し、短母音でも i の後は脱落しない。
  • 長母音の後のため脱落しなかったの一部が r, s が j, t になることがあったか? (y変格、t変格)
  • 子音脱落の結果、長母音・二重母音が大量発生し、短母音・長母音の相違が弁別的になった。単音節短母音の連用形の後に単音節短母音の接辞を付加する場合、長母音でないことを明示するため、母音挿入。
    具体的には、カ変・サ変の命令形 (ke-ə ə, si-ə ə > こ、せよ)、禁止形 (na ke-ə sə, na si-ə sə > なこそ、なせそ)、過去助動詞接続 (ke-ə si, si-ə si > こし、せし) などにおいて発生した。

陰陽陽母音語幹陰母音語幹
最終活用種類四段下二段上二段上一段四段下二段上二段カ変サ変ナ変
派生語幹jak-aoka-asogo-ami-atək-əkəmə-əəkə-əke-əsi-əene-ə
連用形jakeokaisogoimiitəkekəməeəkəikesiene
終止形jakookaosogoomirotəkokəməoəkəokeoseoeneo
連体形jakoookaorosogooromirootəkookəməoroəkəorokeoroseoroeneoro
命令形jake əokai λəsogoi λəmii λətəke əkəməe λəəkəi λəke-ə əsi λəene ə

ペアパターン四段A型四段B型四段C型(下)二段型(上)二段型上一段型
陽母音自他ak-aenabeke-asekaboo-saeaka-asetoko-aseki-sae
陽母音他自jak-aesake-arekoo-jaeaga-are-mi-jae
陰母音自他təjəm-əenəke-əsenəbəə-səetəkə-əseəkə-əse-
陰母音他自tək-əejəəse-ərekəpəə-rəekəmə-əre--

Step 4: 第1次高母音化


  • i は基本的に二重母音後項にしか現れず、高母音(特に前舌側)が空いていたため、陰母音 u が前にずれて ɨ に。
    • その後、どこかで ɨ は、ə に統合したと思われるが、どの時点かは不明。
  • あわせて、陽母音 o が高母音化 o > u (短母音、または二重母音前項の場合のみ)
  • 長短での弁別的意味がほとんどなかった二重母音 ii が短母音化。 


前舌中舌奥舌
高母音
中性 ii

陰 u
中高母音
中性 e
陰 ə
陽o
低母音
陽 a


前舌中舌奥舌
高母音
(ii >) 中性 i
(u >) 陰 ɨ
(o >) 陽 u
中高母音
中性 e
陰 ə
陽 o
低母音
陽 a


-陽母音語幹陰母音語幹
最終活用種類四段下二段上二段上一段四段下二段上二段カ変サ変ナ変
派生語幹jak-auka-asugu-ami-atək-əkəmə-əəkə-əke-əsi-əene-ə
連用形jakeukaisuguimitəkekəməeəkəikesiene
終止形jakuukaosugoomirutəkukəməoəkəokeoseoeneo
連体形jakooukaorusugoorumirootəkookəməoruəkəorukeoruseorueneoru
命令形jake əukai λəsugui λəmi λətəke əkəməe λəəkəi λəke-ə əsi-ə λəene ə

ペアパターン四段A型四段B型四段C型(下)二段型(上)二段型上一段型
陽母音自他ak-aenabeke-asekaboo-saeaka-asetuku-aseki-sae
陽母音他自jak-aesake-arekoo-jaeaga-are-mi-jae
陰母音自他təjəm-əenəke-əsenəbəə-səetəkə-əseəkə-əse-
陰母音他自tək-əejəəse-ərekəpəə-rəekəmə-əre--

Step 5: 高さ調整


  • 二重母音の前項・後項の高さに差がある場合は、後項が中高母音化。(ai > ae, ia > iə, ua > uo)
  • 中高-高ではあるが、əi も後項が若干下がり əi > əɪ になったとしておく。(日本語には必要のない操作だが、琉球語でその後 əi > e になったことに鑑み、i の下がりを想定しておく)
-陽母音語幹陰母音語幹
最終活用種類四段下二段上二段上一段四段下二段上二段カ変サ変ナ変
派生語幹jak-auka-asugu-omi-ətək-əkəmə-əəkə-əke-əsi-əene-ə
連用形jakeukaesuguimitəkekəməeəkəɪkesiene
終止形jakuukaosugoomirutəkukəməoəkəokeoseoeneo
連体形jakooukaorusugoorumirootəkookəməoruəkəorukeoruseorueneoru
命令形jake əukae λəsugui λəmi λətəke əkəməe λəəkəɪ λəke-ə əsi-ə λəene ə

ペアパターン四段A型四段B型四段C型(下)二段型(上)二段型上一段型
陽母音自他ak-aenabeke-asekaboo-saeaka-asetuku-oseki-sae
陽母音他自jak-aesake-arekoo-jaeaga-are-mi-jae
陰母音自他təjəm-əenəke-əsenəbəə-səetəkə-əseəkə-əse-
陰母音他自tək-əejəəse-ərekəpəə-rəekəmə-əre--

Step 6: 逆行同化


  • 二重母音の前項が後項に同化、つまり逆行同化する。また、長母音は短母音化。
  • ただし、前項の非前舌性を保存する。つまり、前項が非前舌・後項が前舌の場合、前項は後項と同じ高さの中舌母音として同化する (ui > ɨi, ae > əe, əɪ > ɨɪ)。
    上代日本語時点でのイ段エ段の甲乙を母音の差としてとらえる(イ段: ɨ, エ段: əe)立場だが、子音の差(口蓋性の有無)と考えてもよい。その場合、「子音の非口蓋性を保存して同化した」ということになる。
  • 前項が前舌高母音 i の場合、拗音化した。(Ciə > Cjə)

-陽母音語幹陰母音語幹
最終活用種類四段下二段上二段上一段四段下二段上二段カ変サ変ナ変
派生語幹jakaukasugomjətəkəkəməəkəsjəenə
連用形jakeukəesugɨimitəkekəməeəkɨɪkesiene
終止形jakuukosugomirutəkukəmoəkokosoeno
連体形jakoukorusugorumirotəkokəmoruəkorukorusoruenoru
命令形jake əukəe λəsugɨi λəmi λətəke əkəməe λəəkɨɪ λəkə əsjə λəene ə

ペアパターン四段A型四段B型四段C型(下)二段型(上)二段型上一段型
陽母音自他ak-əenabeka-sekabo-səeaka-setuko-seki-səe
陽母音他自jak-əesaka-reko-jəeaga-re-mi-jəe
陰母音自他təjəm-əenəkə-senəbə-səetəkə-seəkə-se-
陰母音他自tək-əejəəsə-rekəpə-rəekəmə-re--

Step 7:文法の整理


  • [陰陽語幹の文法統一] 多くの陰母音語幹動詞について、派生語幹の語形が陽母音語幹動詞と統一され -a の形態に。
  • [已然形の成立] 条件法について、「派生語幹+もは(>むは>ば)」の形態が仮定条件にも確定条件にも用いられていたが、「連体形 + 得(あ)もは」の形態が確定条件にも用いられるようになった。
    (この時点において、下二段「得」の推量形「得(え)む」は、「得(あ)も」a-mo である)
  • [受身形、使役形の成立] 「剥ぎ→剥げ→剥がし→剥がれ」のように自動詞化→他動詞化→自動詞化した形式を、通常の派生自動詞と区別して、受身形として使用するようになった。同様に、他動詞化→自動詞化→他動詞化した形式を、通常の派生他動詞と区別して、使役形として使用するようになった。
    (このあたりの詳細は、もとの仮説と概ね変更はないので、もとの仮説を参照)

-陽母音語幹陰母音語幹
最終活用種類四段下二段上二段上一段四段下二段上二段カ変サ変ナ変
派生語幹jakaukasugomjətəkakəməəkəsjəena
連用形jakeukəesugɨimitəkekəməeəkɨɪkesiene
終止形jakuukosugomirutəkukəmoəkokosoeno
連体形jakoukorusugorumirotəkokəmoruəkorukorusoruenoru
已然形jako aukoru asugoru amiro atəko akəmoru aəkoru akoru asoru aenoru a
命令形jake əukəe λəsugɨi λəmi λətəke əkəməe λəəkɨɪ λəkə əsjə λəene ə
(①自動詞化)(四A型)
jak-əe

焼け
(二段)
uka-re

受かり
(二段)
sugo-re

過ぐり
(一段)
mi-rae

見れ
(四A)
tək-əe

解け
(二段)
kəmə-re

籠もり
(二段)
əkə-re

起こり
(四B)
kə-re

こり
(四B)
sjə-re

せり
(四A)
en-əe

往ね
(②他動詞化)(二段)
jaka-se

焼かし
(四B)
uka-rase

受からし
(四B)
sugo-rase

過ぐらし
(二段)
mi-rase

見らし
(二段)
təka-se

解かし
(四B)
kəmə-rase

籠もらし
(四B)
əkə-rase

起こらし
(四B)
kə-rase

こらし
(四B)
sjə-rase

せらし
(二段)
ena-se

往なし
(③自動詞化(四C))
受身形
jaka
-rəe
焼かれ
uka
-rarəe
受かられ
sugo
-rarəe
過ぐられ
mi
-rarəe
見られ
təka
-rəe
解かれ
kəmə
-rarəe
籠もられ
əkə
-rarəe
起こられ
kə
-rarəe
こられ
sjə
-rarəe
せられ
ena
-rəe
往なれ
使役形jaka
-səe
uka
-sasəe
sugo
-sasəe
mi
-sasəe
təka
-səe
kəmə
-sasəe
əkə
-sasəe
kə
-sasəe
sjə
-sasəe
ena
-səe

ペアパターン四段A型四段B型四段C型(下)二段型(上)二段型上一段型
陽母音自他ak-əenabeka-sekaboo-səeaka-setuko-seki-səe
陽母音他自jak-əesaka-rekoo-jəeaga-re-mi-jəe
陰母音自他təjəm-əenəkə-senəbəə-səetəka-seəkə-se-
陰母音他自tək-əejəəsə-rekəpəə-rəekəmə-re--

Step 8: 未然形の誕生


-陽母音語幹陰母音語幹
用法四段下二段上二段上一段四段下二段上二段
派生語幹-a-aa > -a-oa > -o
(> -u)
-ia > -jə
(> -e)

or 陽母音と統合し -a
-əə > -ə
or 陽母音と統合し-a
-əə > -ə
助動詞接続
(ex. 打消)
焼き/焼かず
上がり/上がらず
焼け/*焼かず
上げ/*上がず
[連用形化]
> 焼けず
> 上げず
尽き/*尽くず
[連用形化]
> 尽きず
見/*めず
[連用形化]
> みず
解き/解かず籠め/*籠まず
[連用形化]
> 籠めず
起き/*起こず
[連用形化]
> 起きず
自他動詞
派生
靡き/靡かし上げ/上がり尽き/尽くし(見/見え)寄し/寄そり籠め/籠もり起き/起こし
受身形
使役形
焼き/焼かれ
上がり/上がられ
焼け/*焼かられ
上げ/*上がられ
[連用形化]
> 焼けられ
> 上げられ
尽き/*尽くられ
[連用形化]
> 尽きられ
(見/見られ)解き/解かれ籠め/*籠もられ
[連用形化]
> 籠められ
起き/*起こられ
[連用形化]
> 起きられ
シク活用
形容詞
派生
悩み/悩ましく痩せ/優しく恋ひ/恋ふしく
[連用形化]
> 恋ひしく
-頼み/頼もしく尋め/乏しく老い/老よしく

  • Step 6 において、-a/-aa (または -ə/-əə) だった四段/下二段の派生語幹の区別がつかなくなり、特に「空き/空け」「焼き/焼け」等の四段A型自動詞他動詞対応において支障が生じた。
    • 具体的には、現在で言うところの未然形接続助動詞(推量形(む)、打消形(ず)等)の形式で区別がつかなくなった。(焼き/焼か-ず、焼け/焼か-ず)
    • 同様に二段型の自動詞他動詞の受身形・使役形についても区別がつかなくなった。(上がり/上がら-れ、上げ/上が-られ)
  • この不便を解消するため、下二段動詞において、助動詞への接続・受身形・使役形において、派生語幹の代わりに連用形を代用するようになった。この形式を以降、未然形と呼ぶ。
    • (焼け/焼かず > 焼け/焼けず、上げ/上が-られ > 上げ/上げ-られ)
  • 自動詞他動詞派生そのもの(ex. 上げ/上が-り) については、ラ行/サ行語尾がつくため自動詞他動詞が自明、シク活用形容詞派生 (ex. 痩せ/優しく) については、自動詞他動詞の区別が重要ではなかったため、引き続き元の派生語幹が使用された。
  • 下二段の未然形連用形代用は、上記のように自動詞他動詞の区別をつける観点で生じたが、上二段・上一段については、所属語も少ないことから、文法を簡略化する観点で、下二段における連用形代用に追随した。
    • 特に陽母音語幹上二段は、四段・下二段の派生語幹 -a とも、陰母音語幹の -ə とも異なる派生語幹 -o (Step 9 を経て > -u) を持っていたため、派生形式の記憶が難しかったと思われる。
      助動詞接続・受身形・使役形のみならず、シク活用形容詞派生でも連用形の代用が発生した(恋ひ/恋ふしく > 恋ひ/恋ひしく。ほかに、寂び/寂びしく、侘び/侘びしく、等)。 
  • 助動詞接続のうち尊敬スについては、語法の性格上保守的な形式が好まれ、 元の派生形式を保存した。(寝/なし、見/めし)
  • 下二段「得」の未然形が a > əe になったことから、已然形「書こ得(あ)ば」の形式が「書こ得(え)ば」になった。「書こ得(あ)ば」>「書かば」になってしまうと仮定条件と区別がつかなくなってしまうため、「書こ得(あ)ば」の母音融合は阻害されていたが、「書こ得(え)ば」であればそういう問題は生じないので「書けば」となった。
    一方、ク語法に由来する過去助動詞キの已然形(有りしく得(あ)ば)は、そういう問題がないので既に母音融合し「有りしかば」となっていた。その結果、元の動詞「得」との関係が薄れていたため、「有りしけば」とはならなかった。

-陽母音語幹陰母音語幹
最終活用種類四段下二段上二段上一段四段下二段上二段カ変サ変ナ変
派生語幹jakaukasugomjətəkakəməəkəsjəena
未然形jakaukəesugɨimitəkakəməeəkɨɪsjəena
連用形jakeukəesugɨimitəkekəməeəkɨɪkesiene
終止形jakuukosugomirutəkukəmoəkokosoeno
連体形jakoukorusugorumirotəkokəmoruəkorukorusoruenoru
已然形jakəeukorəesugorəemirəetəkəekəmorəeəkorəekorəesorəeenorəe
命令形jake əukəe λəsugɨi λəmi λətəke əkəməe λəəkɨɪ λəkə əsjə λəene ə
受身形jaka
-rəe
ukəe
-rarəe
sugɨi
-rarəe
mi
-rarəe
təka
-rəe
kəməe
-rarəe
əkɨɪ
-rarəe

-rarəe
sjə
-rarəe
ena
-rəe
使役形jaka
-səe
ukəe
-sasəe
sugɨi
-sasəe
mi
-sasəe
təka
-səe
kəməe
-sasəe
əkɨɪ
-sasəe

-sasəe
sjə
-sasəe
ena
-səe


Step 9: 第2次高母音化と、中央語/東国語/琉球語の分離


  • 語幹末など、聞こえ度の高い場所等を除き、中高母音 (e, o) が上昇した。(e > i, o > u)
  • 発生した場所について、中央語/東国語/琉球語で条件が異なったと思しいが、はっきりしない。
  • 単語間にまたがる母音の融合が行われるようになった。ea > ia > e, eə > iə > e, ua > o 等。
    この結果、完了リ接続 -i ari > -eri, 形容詞未然形 -ki a > -ke 等が現れた。
    このとき同様に、命令形でも -i ə > -e の形が生まれた。
    • 「にあり」>「なり」のようなものは、e > i の上昇前に既に母音融合したものと思われる。 ne are > nare > nari (ne are > ni ari > neri でなく。cf. are ke are > ari ki ari > arikeri 有りけり) 
  • 東国語では、完了リ接続、形容詞未然形などで、甲類エ段ではなくア段が現れている。
    中央語では e-a の環境でも規則どおり i-a と上昇したが、東国語では低母音 a の前では上昇の開始が遅れ ea > a になったと思われる。一方で命令形では中央語と同様エ段になっていることから、e-ə の環境では、中央語同様 eə > iə > e になったようだ。
  • 東国語(および現代八丈語)では動詞・形容詞の連体形で o, e が残存している。琉球語でも「おもろさうし」時代には動詞連体形の o が残存していたと思しい。
    中央語ではオ段エ段連体形が失われ、東国語・琉球語で残存した理由はよくわからない。
  • その他、下記のような音変化が生じた。

音形eaCjəλɨiɨɪəe
中央語> ia > e> iə > e> Cey> ɨ (イ乙)> ɨ (イ乙)əe (エ乙)
東国語> ar> e (エ甲)
琉球語> ia > er? > i> ɪ > e > e

陰陽陽母音語幹陰母音語幹
最終活用種類四段下二段上二段上一段四段下二段上二段カ変サ変ナ変
派生語幹焼か
jaka
受か
uka
過ぐ
sugu

me
解か
təka
籠も
kəmə
起こ
əkə


se
往な
ina
未然形焼か
jaka
受け
ukəe
過ぎ
sugɨ

mi
解か
təka
籠め
kəməe
起き
əkɨ


se
往な
ina
連用形焼き
jaki
受け
ukəe
過ぎ
sugɨ

mi
解き
təki
籠め
kəməe
起き
əkɨ

ki

si
往に
ini
終止形焼く
jaku
受く
uku
過ぐ
sugu
見る
miru
解く
təku
籠む
kəmu
起く
əku

ku

su
往ぬ
inu
連体形焼く
jaku
受くる
ukuru
過ぐる
suguru
見る
miru
解く
təku
籠むる
kəmuru
起くる
əkuru
来る
kuru
する
suru
往ぬる
inuru
已然形焼け
jakəe
受くれ
ukurəe
過ぐれ
sugurəe
見れ
mirəe
解け
təkəe
籠むれ
kəmurəe
起くれ
əkurəe
来れ
kurəe
すれ
surəe
往ぬれ
inurəe
命令形焼け
jake
受けよ
ukəe yə
過ぎよ
sugɨ yə
見よ
mi yə
解け
təke
籠めよ
kəməe yə
起きよ
əkɨ yə

せよ
se yə
往ね
ine
受身形焼かれ
jaka
-rəe
受けられ
ukəe
-rarəe
過ぎられ
sugɨi
-rarəe
見られ
mi
-rarəe
解かれ
təka
-rəe
籠められ
kəməe
-rarəe
起きられ
əkɨ
-rarəe
来られ

-rarəe
せられ
se
-rarəe
往なれ
ina
-rəe
使役形焼かせ
jaka
-səe
受けさせ
ukəe
-sasəe
過ぎさせ
sugɨi
-sasəe
見させ
mi
-sasəe
解かせ
təka
-səe
籠めさせ
kəməe
-sasəe
起きさせ
əkɨ
-sasəe
来させ

-sasəe
せさせ
se
-sasəe
往なせ
ina
-səe

ペアパターン四段A型四段B型四段C型(下)二段型(上)二段型上一段型
陽母音自他明け
ak-əe
靡かし
nabika-si
被せ
kabu-səe
明かし
aka-si
尽くし
tuku-si
着せ
ki-səe
陽母音他自焼け
jak-əe
放かり
saka-ri
越え
ko-jəe
上がり
aga-ri
-見え
mi-jəe
陰母音自他響め
təjəm-əe
残し
nəkə-si
上せ
nəbə-səe
解かし
təka-si
起こし
əkə-si
-
陰母音他自解け
tək-əe
寄そり
jəəsə-ri
零れ
kəpə-rəe
籠り
kəmə-ri
--

以上。

まだちょっと、ご都合主義的なところが残っているような気がする。
もう少しブラッシュアップが必要な気がするが、どのあたりを切り口にすればよいものか。。。


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